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I号指揮戦車

I号戦車のヴァリエーションの中で、最も有名で、また最も数多く生産されたのがこのI号指揮戦車である。
こうした車両が作られた背景には、無線指揮に対するドイツ軍の考え方がある。
無線を利用した指揮、統制は、ドイツ軍の編み出した機動戦術にとって、死活的に重要だったのである。
一般的には、I号戦車に装備される無線機はFu.5送受信機であったが、通常は、Fu.2受信機が戦闘室右前部に装備されていた。

この場合、操縦手が無線手を兼ねなければならなかった。
操縦しながら無線を操作できるわけもなく、その上、全般的な戦闘指揮など全く不可能だった。
このため、戦闘指揮を専門とするために開発されたのが、指揮戦車というわけである。
最初の型は、1K1A型と呼ばれるI号戦車A型車体を利用したタイプで、砲塔を取り外し、ほぼ同じ位置に8角形の小型の塔状構造物を設けたものだった。

構造物の上面にはハッチがあり、前面と後面にはスリットのある視察口が設けられていた。
武装は装備されておらず、構造物の右側後方に通常のロッド・アンテナ、車体右側前部のフェンダー上にコの字型をしたフレーム・アンテナが取り付けられている。
戦闘室内部には、通常型の標準装備であるFu.2受信機に加えて、Fu.6送受信機と専用の無線手が追加されていた。

1K1A型は、1935年に6両が製作された。
I号指揮戦車の一般的なタイプは、より大型のI号戦車B型車体を使用した2K1B型と3K1B型であった。
これらは1935年から1938年にかけて、ダイムラー・ベンツ社で合計184両が生産された。
B型ベースの指揮戦車は、最初から指揮戦車として使用するため設計されたもので、車体の上部設計自体が大きく変更されている。

砲塔は無く、元々は砲塔基部であった車体上部戦闘室全体が、そのまま上へ延ばしたような形の塔状構造物となって、大きな容積を稼ぎ出している。
構造物には多くの視察クラッペが設けられており、オリジナルのB型車体に設けられていた操縦手用視察クラッペと、車体前部左右の他、前面板の中央部と戦闘室右側面の中央部にスリット付きの視察クラッペ、後面にスリット無しの視察クラッペがある。

戦闘室左側には乗降用の観音開き式の大型ハッチがあり、このハッチには、外部視察用に防弾ガラスのはめ込まれたスリットが設けられている。
また、戦闘室上面右側にはキューポラが設けられており、8角形の塔状をしたこのキューポラの周囲には、防弾ガラスの入ったスリットが開口している。

なお、このキューポラは初期の一部車両には装備されておらず、おそらく、戦訓によって追加されたものと思われる。
また戦訓により、戦闘室とその前方にあたる車体上面に15mm厚の追加装甲板を装着した車両も多かった。
武装は、7.92mm機関銃1挺が戦闘室前面右側にマウントされている。
これは通常、車長が操作する。

車内には、900発の弾薬を携行している。
なお、7.92mm機関銃は初期には、MG13を円形防盾付きのマウントに装備していたが、MG34への換装に伴って、ボール・マウント式の銃架に変更されている。
大型化した戦闘室内には地図用テーブルが設けられ、Fu.2とFu.6の2台の無線機が搭載されている。

Fu.6は出力20Wの送受信機で、通常型に使用されているFu.5のおよそ2倍の通信距離(Fu.5の6〜10kmに対して13〜16km)を持っていた。
また、無線機用のバッテリーに充電するため、専用の小型発電機も装備されていた。
アンテナは、戦闘室の右後部から横に張り出して装備し、使用時以外は、フェンダーに斜めに取り付けられたケースに収納しておく。

この他、後期の一部車両には、大型の2mフレーム・アンテナが戦闘室周囲に取り付けられたものもあり、この車両には、Fu.6よりもさらに通信距離の長いFu.8送受信機が搭載されていたものと考えられる。
これらの車両は一般に、大隊本部付車両として使用されていた。
I号指揮戦車は、1936年から使用が開始されていたが、大規模に使用されるようになったのは、1941年5月のフランス戦開始時からであった。

それ以後も、北アフリカや東部戦線などで使用されたが、I号戦車そのものの退役に伴って、指揮戦車も、より大型のIII号指揮戦車などに更新されていった。
大戦中期以降は、戦車修理部隊、砲兵部隊などで観測車両や連絡車両として使用され、珍しい例としては、装甲救急車として使用されたものもあった。

<I号指揮戦車B型>

全長:    4.42m
全幅:    2.06m
全高:    1.99m
全備重量: 5.9t
乗員:    3名
エンジン:  マイバッハNL38TR 直列6気筒液冷ガソリン
最大出力: 100hp/3,000rpm
最大速度: 40km/h
航続距離: 140km
武装:    7.92mm機関銃MG13またはMG34×1 (900発)
装甲厚:   6〜28mm
















































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