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38(t)7.5cm対戦車自走砲マルダーIII M型

●開発


38(t)戦車、マルダーIII対戦車自走砲の生産を行ってきたチェコのBMM社は、1943年に入ってから間もなく、アルケット社と協力して、38(t)戦車の車体をさらに自走砲向きに改良を図った自走砲専用車体の開発に着手した。
その背景には、前線ではより多くの自走砲が求められ、月産生産量として100〜150両を要求されていたのに対し、従来の車体ではその要求をクリアするのが不可能であったからに他ならない。

1943年2月末には、アルケット社から送られてきた設計図面を基に、BMM社の手で製作された試作車が完成した。
この車体は、当初「シグマーM型」の発注呼称が与えられ、対戦車砲搭載型は無論のこと、15cm重歩兵砲搭載型や対空型の共通車体としても用いられた。

この”M”はドイツ語の「中央」を示すもので、エンジンが車体後部から中央部に移されたことに起因しているのはいうまでも無い。
しかし、生産がスタートしてからしばらく経た1943年9月に、「シュバインフルス」に呼称が変更されている。
開発に際してアルケット社は、1942年7月末から開発を進めていた、15cm重榴弾砲sFH18を搭載する自走砲(後にフンメルとして制式化される)のレイアウトを踏襲した。

このため、マルダーIII M型はフンメル自走榴弾砲と基本形を一にしており、生産性を向上させると共に、主砲の装備位置が低くなったことで、全高を下げることにも成功している。
そのスタイルは、フンメル自走榴弾砲と同一車体を用いて開発されたナースホルン対戦車自走砲に酷似していた。


●車体の構造

生産性の向上とより高い操作性を可能とすべく、それまで車体後部に配されていたエンジンは、ラジエーター、燃料タンク共々車体中央部に移され、車体後部は広い戦闘区画とされた。
また、戦闘区画のスペースをさらに確保するため、車体後部が後方に延ばされた独特の形状に変更された。
車体前部は、従来の戦車型と同様に変速機と操向装置が置かれているが、その上面の装甲板は、車体中央の機関室上面まで1枚の11mm厚傾斜装甲板とされ、操縦室は右側に突出した形に改められた。

この操縦室は15mm厚の鋳造製で、上面に左右開き式の円形ハッチ、前面に開閉式バイザーを備え、操縦室の下方にあたる車体右側面にも、開閉式の装甲カバーを備える視察孔が設けられている。
また、車体前面の装甲板が、最前部にかかる重量を減らすために50mmから15mmに変更されているのもマルダーIII M型の特徴である。

操縦室の後方にあたる車体中央に設けられた機関室は、中央にプラガAC 直列6気筒液冷ガソリン・エンジン(150hp/2,600rpm)を配し、エンジンの左右に110リッター容量の燃料タンクを置き、エンジンの後ろには前方に傾斜する形でラジエーターが配され、ラジエーター後方には冷却ファンが装備されている。
エンジンへの空気は、機関室左右に張り出した部分の下に設けられた開口部から吸入し、ラジエーターからの熱風は、右側張り出し部の後方にあたる車体側面に設けられたルーバーから排出される。

エンジンの前方には小型の燃料タンクが追加されているが、これは、エンジンのキャブレターに直接燃料を送り込んで、冬季時のエンジン始動を容易にするためのものである。
機関室上面には、前部にヒンジを備えるエンジン点検ハッチが左右に分割されて装備され、後方の戦闘室と6mm厚の隔壁で仕切られている。

この点検ハッチの前にはトラベリング・クランプが設けられており、戦闘時には前方に倒されるが、この操作は戦闘室内から行うことができた。
足周りは戦車型と同様だが、生産性向上のために上部転輪は前方のものが廃止されて、1個に減っている。
1943年末からの生産車では、さらに生産性の向上が図られた。

これは、鋳造製だった操縦室を平面装甲板の溶接製とし、左右に張り出したエンジン空気吸入部も、前端に丸みを持つボルト止めから、より単純な角形の溶接式となった。
さらに、車体右側のリア・パネルから出てマフラーに結合されていた排気管は、右側の空気排出用ルーバーから車外に出され、側面に沿って後方に延ばされてマフラーに結合する方式に改められた。

また、外観からは分からないが、車体前面の装甲厚が15mmから20mmに強化されたのも後期生産車の特徴である。
車体リア・パネルの円形点検ハッチは当然ながら姿を消したが、エンジン強制始動用クランク棒差し込み口はそのまま残された。

しかし、エンジンが車体中央に移ったため、クランク始動棒は戦闘室内で延長シャフトと結合され、機関室隔壁に備えられた差し込み口に差し込むという方式が採られた。
また、強制始動アタッチメントの固定棒が、差し込み口の左右に新設された。
従来リア・パネルに設けられていた、誘導輪を前後に移動することで履帯の張度を調節する装置は姿を消しているが、これは、戦闘室内の床板を開き、ここから調節する方式に改められたからである。


●戦闘室の構造

車体後部の戦闘区画を覆うように設けられた戦闘室は、主砲の防盾を含んで、全て10mm厚の鋼板で構成され、戦闘室と機関室上面との間に生じる隙間を塞ぐために、戦闘室前面のカーブに沿って装着された装甲板のみ、8mm厚のものが用いられている。

各装甲板はリベット止めとされ、後面の中央部は、下側にヒンジを備える乗降用ドアとされ、戦闘時にも開いて、作業空間の拡大を図っている。
主砲は、マルダーIII H型と同じく7.5cm PaK40/3を搭載しており、射角は左右各21度ずつ、俯仰角は−5〜+13度であった。

弾薬もマルダーIII H型と同様だが、弾薬搭載数は27発に減り、戦闘室内側の壁面に、左右それぞれ6発ずつを2列に配するラックが設けられ、さらに、砲手の左側にあたる部分の壁面にも3発を収めるラックが装着されており、弾薬は全て立てられた状態で収納されていた。
この戦闘室には、右前部に無線手を兼ねる車長、左側に砲手、そして車長の後方には装填手がそれぞれ位置している。

戦闘室内に身を隠したまま車外を視察できるように、前面に2カ所、両側面にそれぞれ1カ所ずつペリスコープの装着部が設けられており、左右の装甲板内側に補強用パイプの差し込み具が設けられ、金属パイプが差し込まれていた。
このパイプは、降雨時などにキャンバス・カバーを張る際の支えとなるが、必要に応じて対空機関銃とそのマウントを装着することもできる。


●生産

マルダーIII M型の生産は1943年5月から開始され、同月中に最初の20両が完成している。
当初373両が発注されたが、同年10月には1,000両が追加発注され、1944年2月までに1,295両が完成する計画が立てられた。
生産はヴェナ工廠で進められたが、1943年6月までに56両を生産した後、新たに開設されたオロモック陸軍工廠に生産は委ねられている。

しかし、部品の供給が遅れたために、1944年6月までに942両が完成した時点で生産は中止された。
能力的には優れたものを持つマルダーIII M型が、1,000両にも満たない生産数に終わったのは、完全密閉式戦闘室を備えてさらに強固な装甲を施した、ヘッツァー駆逐戦車に生産が切り替わったからに他ならない。

なお、「マルダーIII M型」の制式呼称が与えられたのは、1944年3月になってからのことであった。
マルダーIII対戦車自走砲シリーズは、当初、独立戦車駆逐大隊に配備されたが、その後、1943年からは機甲師団と機甲擲弾兵師団の、1944年からは歩兵師団の戦車駆逐大隊にそれぞれ配備された。

その定数は、本車3両を装備する小隊3個で1個中隊を編成し、この中隊3個で大隊を構成するので、その定数は27両となる。
また、歩兵師団などの戦車駆逐大隊の場合は、1個中隊(一部の部隊では2個中隊)に対する配備が行われたが、定数を満たした例は少なかった。


●派生型

BMM社は、1943年に兵器局第6課からの要求に従い、マルダーIII M型をベースとした各種派生型を開発した。
以下、それらについて簡単に解説する。

☆液体ガス使用車
本車は、燃料の供給が困難になった場合を想定して開発された車両で、マルダーIII M型の車体前部左側に液体ガスを収めるボンベ2基を搭載し、エンジンの燃料としていた。
試験では、走行には何ら問題が無かったといわれるが、実戦に参加すること無く、試作車が1両改造されただけに終わった。

☆兵員・弾薬運搬車
優れた戦闘能力を備えるマルダーIII M型であったが、弾薬を27発しか搭載できないのは問題視され、行動を共にする弾薬運搬車の開発が計画された。
この車両は、弾薬運搬は無論のこと、歩兵を搭乗させて装甲兵員輸送車としての運用も兼ねており、このため、戦闘室は酷似しているが、一部装甲板が追加されている。

当然ながら主砲は未装備とされ、戦闘室前面の開口部は装甲板が追加されて姿を消し、戦闘室後方は、新たに設計された追加装甲板が装着された。
この追加装甲板のリア・パネルには左右開き式のドアが設けられ、戦闘室内左右と後部に木製のベンチシートを備えて、兵員8名を収めることが可能だった。

弾薬搭載量は明らかにはされていないが、50発程度は収容することが可能だったと思われる。
本車は、1両が対戦車型から改造されたが、その後の状況は不明である。

<38(t)7.5cm対戦車自走砲マルダーIII M型>


全長:    5.02m
全幅:    2.15m
全高:    2.35m
全備重量: 10.15t
乗員:    4名
エンジン:  プラガAC 直列6気筒液冷ガソリン
最大出力: 150hp/2,600rpm
最大速度: 47km/h
航続距離: 200km
武装:    46口径7.5cm対戦車砲PaK40/3×1 (27発)
装甲厚:   6〜20mm















































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